1962年 独立セレモニーに訪れた
イギリスのプリンセス・マーガレットと当時のブスタマンテ首相
©Jamaica Gleaner
1962年8月6日、イギリスによる植民地統治を終え、独立を果たしたジャマイカ。時は経ち、2012年8月6日、独立宣言の舞台だった首都キングストンのナショナル・スタジアムでは祝賀行事が行われ、盛大な花火が打ち上げられ、 独立50周年を祝った。
ブスタマンテ首相は独立の際に国民に向けたメッセージのなかで、「独立とは、我々が我々の力で運命を構築する機会を得たことを意味し、それを実現させるためには我々自身の可能性を信じなくてはならない…」と述べた。国民は独立国となったジャマイカの未来に大きな夢を描いていたに違いない。
しかしこの50年間を振り返ると、政治的混乱や経済的困窮によって国は発展するどころか退廃の一途を辿っていると非難する声も多い。独立時からこの国の政治に関わってきたエドワード・シアガ元首相ですら、「ジャマイカはこの50年間であまり進歩していない」と新聞社のインタビューに答えている。
より良い生活を求めて海外に移住していく国民も多く、今や国内よりも海外に暮らすジャマイカ人の数の方が多い。どうしてこのような事態に陥ってしまったのか…。まずはジャマイカの政治経済にまつわる50年史を簡単に振り返りたい。
独立からの10年。実はこの時期は高度経済成長期であり、 都市開発や観光開発が次々と進められ、 先進国の仲間入りが期待されていた。
カリブ海の真珠とも呼ばれた当時のジャマイカはブスタマンテ首相を中心とする有能な政治家のリーダーシップのもと、経済的、社会的、文化的に発展を遂げていた。
1972年、野党PNPのマイケル・マンレーが首相に就任。カリスマ的なリーダーではあったが、キューバに歩み寄る社会主義的な政治経済発展と社会改革を試み、教育の無料化等数々の素晴らしい功績を残すと同時に大きな爪痕も残した。国の借金は3億から3兆ジャマイカドルに膨れ上がり、インフラ上昇率は250%、失業率も43%上昇した。
世界銀行からは「世界で2番目に経済が退廃している国」という不名誉な烙印を押された。
歴史に残る1980年の流血の総選挙を経て野党JLPのエドワード・シアガが首相に就任。流血の総選挙とは、政治闘争に巻き込まれた貧しい人々の殺し合いによって多くの死者が出たことに由来する。シアガはマンレーとは正反対と言える資本主義政治、アメリカに歩み寄る政治を展開し、国家再建を試み、様々な公的機関を立ち上げる等の功績を残したものの、60年代のような世界に誇れる発展の波を取り戻すことはなく現在に至る。
経済の退廃には世界的な不景気や市場競争といった外的要因も多く、小さな島国ジャマイカが国として常に発展を続けることはそう簡単ではない。
他方、世界に誇れる成功を納めている分野もあり、それが、音楽、陸上、観光だ。Bob Marleyとレゲエ音楽は世界中に浸透しているし、世界最速ランナーUsain Boltのオリンピックレースには世界中が釘付けになるし、誰もが一度はジャマイカの綺麗な海でバケーションを過ごしてみたいと夢見る。ブランドとしてのジャマイカは確実に確立されている。だからこそ内側からの更なる発展が望まれるのだ。
独立記念日の新聞特集ではジャマイカの荒廃した現状を以下のように指摘する。
− 過去40年間の経済成長率が平均1%
− インフラ整備が需要に追いついていない
− 教育システムの不備
− 高失業率
− 高犯罪率
経済を立て直し、住みやすい国づくりを進めるためには真摯に取り組むべき課題が沢山ある。ありすぎて途方に暮れてしまいそうだが、同じく独立記念日の新聞に大学生からの心強い投稿を見つけたので最後に紹介したい。
「私はジャマイカの大学で経営学を専攻する学生です。この国の経済発展に不安を抱いています。活気のない生産業とスローペースな経済成長率が国の発展の足かせになっています。
先日、大学の経営学部でフォーラムが開かれましたが、そこでも過去40年間、ジャマイカは持続可能な発展が実現できていないとの分析がなされました。このように問題の重要性に気づいている人がいるにも関わらず、未だに問題の解決策は見つかっていません。世界最速のランナーがいて、世界的な組織にも人を送っている国にも関わらず、経済成長と発展がありません。そして独立50周年を迎えました。
私たちは私たちの国を愛しているとよく言いますが、それは『私たちが国のために何ができるか』ではなく、『国が私たちに何をしてくれるか』に焦点が当てられています。ジャマイカを変えていくにはまずこの点を見直さなくてはなりません。
まず、国が望む目標を実現するために、基礎教育のカリキュラムを見直す必要があります。そうすれば彼らが大人になった時、確実に状況が変わります。
現実と向き合いましょう。現実と向き合うことを抜きにして状況を改善することはできません。私たちの愛するジャマイカの成長と発展のために」 。
現実と向き合う若者の声を聞くと明るい気持ちになる。
ジャマイカの行く末を案じる声があるということは国にとっても希望である。これらの声がかき消されることなく発展への原動力となることを心から祈りたい。昨今のオリンピック陸上でも世界の注目を集めるほどの才能とパワーを秘めた国である。 ジャマイカ人のその底力で国民がもっともっと幸せになれる国を目指して欲しい。
[Sources]
・"Advancing 'cool' Jamaica," The Gleaner, Monday August 6, 2012.
・"Jamaican need to buckle up!," The Gleaner, Monday August 6, 2012.
・A Development Plan for Independent Jamaica
・Jamaica 50: Manley and the JLP
・Tortello, Rebecca. Pieces of the Past: A Stroll Down Jamaica's Memory Lane (Ian Randle Publishers,) 2007.
■Sachica プロフィール
ジャマイカ在住。
2011年、歴史遺産学修士号取得。
ジャマイカの歴史、文化遺産、観光ガイド本の類を出版するのが密かな夢。関係業界の方々からのご連絡をお待ちしております!
(画像などを設置)
2012.08.20:R.CUBE