キマッタ!!でももう後には戻れない、次はどうする?分からない、オレの人生の中で前例がない事態に
目の前が真っ白になりそうだ。でも待てよ....
そうだ、カンニングペーパーだ!!
オレはとっさにカンニングペーパーを持ってくれている女の子に目をやった。
が!次の瞬間、目の前に広がる光景に愕然とした。
頼みの綱のカンニングペーパーがブラックライトで全然見えない!!
目に写っているのは青白く照らされたのっぺらんとしたただの紙.......
命綱は気付かないうちにとっくに切られていたのだった。
オレはDJを始める前はバンドマンだった。バンドのメンバーが演奏中にもし間違ったとしたら、
他のメンバーも気付いて何らかのリアクションが返ってくるだろう。
それにやっているのは全て人間がリアルタイムでやってる事なんだからと思うと甘い考えも生まれてくる。
しかし、今バックを務めてくれているのはセレクターと言えども、音源は既に録音されたレコードだ。
レコードは待ってくれない、レコードはオレがミスしても気付いてくれない、
レコードは止まってくれない!いかん、このままだと恐怖のあまりドツボにハマってしまう。
もうこうなったら勢い(当時ヴァイブスなんて言葉はまだ知らなかった)でやってやる!
オレは全神経を歌に集中させることにした。
ところでみなさん、レコーディングをする時は歌詞カードは出来るだけ持たない様に心がけよう。
歌詞カードを見ながら歌えばもちろんミスは少なくなるし、何と言っても補助車をつけた様な安心感が得られる。
だがそれは同時に、集中力を散漫にして、リズムも聴かずにただ歌を乗っけてしまうという
最悪のパターンにつながる原因だ。
何回もパンチした歌は一見上手に聴こえるが、もう一歩の所で何か心に響かない。
レゲエ好きなみなさんならもう分かるだろう?そう、ヴァイブスだ。
ヴァイブスは人が本気を出してやっと生まれる波動だ。
一点を見つめてそこに波動を叩き付ける、そこには歌詞カードなんて補助車は出来るだけ無い方が良い。
時間がなかったから覚えれなかった、キーが思ったより高くて歌詞を目で追う余裕が無く何回も録り直した、
オレだってそんな事一杯ある。
だけどみなさん、最近のテクノロジーに甘えてやしないかい?
エンジニアが上手く繋いでくれるからってズルしちゃいないかい?
テクノロジーと言えば、まだDATの時代のジャマイカでのオレとN.G Headの面白いエピソードもあるが、
その話はまたの機会にしておこう。
さておき、いくらパソコンが発達しても、それはただの機械だ、大事なのは人間の自信なんだ。
DJは一発勝負だ、ヴァイブスが命だ。だからちょっと間違ったからって止めないで最後迄歌いきってくれ、
エンジニアもオケを止めないでくれ、ちょっとのミスなんてそれこそ後からどうにでもなるだろ?
一度DJが始まりだしたら、いつも上げるか落とすかの崖っぷちに居るのと同じなんだ。
さあ、自分を信じて、邪念を抹消せよ!!
Club Wall、これはオレにとって人生初となるDJのステージだ、良い所見せんのいつ?今でしょ!?
何回も練習したんだし、暗記したんだから問題ない。なりきってこのままゴールしよう!
オレは自分に言い聞かせた。
1曲目をやり始めたころから、「何?何?誰か歌ってるぞ。見た事ねぇぞ!」みんなが驚いて集ってきた。
もうドキドキで、余裕がないから取りあえず歌う、ただそれだけ。
そして2曲目、「いーじゃん、もっとやれー!」現場は盛り上がり始め、みんなが味方に付きだした。
「そうだ、この調子だ、客が求めている、出来るだけオーバーに、最後の曲は思う存分ぶっ飛ばそう!」
オレももう怖い物などなくなったいた。
そして最後の3曲目、お客はすっかりオレたちを信用してリズムに身をゆだね、ある者は歓声を上げていた。
「ワー!!イェー!フーッ!!」(まだこの時代、Pan pan!!って言うヤツもいなかったなー)
Wheeeel!!!!! ありがとう、Club Wall people !!!
フロア全体がオレに目線を投げかけるのを背にしオレはブースの中に戻り、
オレたちのショーは咬まないで一瞬のうちに、しかし大好評のうちに幕を閉じた。
それから友人達と何を話したか、どんな酒を飲んだかまでは覚えていないが、
今までのDJ人生のなかであれ程痛快だった記憶はない。
たとえデカいステージに立てた今振り返っても.........
気付くとオレは明るくなりかけた空の下、1人チャリをこいでいた。
家に着いて音をたてずに鍵を開けスーッと居間まで忍び込んで行ったが、居間の電気をつけたとたん
「ヤッター!」とガッツポーズをとった。
その時オレは、この最初のステージがその後の長い長いDJという
とてつもねー世界への第一歩だったとは知る余地もなかった。
つづく
▲セットアップを着たPAPA BON。手の主はNaniwa Man
2013.06.20:PAPA Bのとてつもねー世界