Usain Boltが男子100Mを征し、次いで女子100Mでも表彰台を独占すると、国内のオリンピック熱は一気に沸いた。男子200Mの決勝が生中継されたのはジャマイカ時間の朝8時過ぎであったが、国民は通勤そっちのけでテレビの前に張り付いた。結果、Usain Boltが200Mでも世界新記録を樹立して優勝。その日から国中がお祭りムードへと突入した。多くの車がジャマイカ国旗をなびかせて走り、多くの人がジャマイカTシャツを着て、スーパーや銀行までもが国旗や国旗カラーで装飾を施し、国中がこの快挙を祝った。皆が口を揃えて言う…「ジャマイカが一番!(We are the number one!)」
ジャマイカでは、ゲットー住民の地域的結束が特に強く、女子100Mで優勝したSherry-Ann Fraserの地元Waterhouse(*)では、住民がお鍋のふたを楽器にして踊りながら祝賀パレードを繰り広げたり、祝賀ダンスが開かれたりしていた。また、女子400Mハードルでオリンピック記録を樹立して優勝したMelaine Walkerの地元Maxfieldでは、彼女を、地域内対立の続く同地区を結束させる平和の象徴と捉える動きもある。
そして、国民の心を掴んだパフォーマンスが、Usain Boltのウィニング・ランならぬウィニング・ダンス。
[Nuh Linga] や
[Gully Creeper] を踊る姿には、島中の老若男女が興奮した。一部の海外メディアなどはこれを「選手らしからぬ行為」として批判したが、ジャマイカのメディアや世論はそのような批判をまったく気にしておらず、むしろ、ジャマイカ人らしい行動に愛着を持ち、ジャマイカが誇るダンスを世界の大舞台で披露してくれたことに喜んでいるようだ。ダンスホール世代のUsain Boltは踊ることが大好き。暇があればニューダンスをチェックし、トレーニングの合間にはキングストンのお洒落クラブにも出没するという。
また、オリンピックにあわせて応援ソングを発表したアーティストも多い。ここ一番のヒットはMavadoの
[On The Go] であろう。ダンスの現場でもこの曲が一番の盛り上がりを見せており、ダンサーの男の子たちが、走るマネをしたダンスを披露していた。
政府の課題は、どのようにして選手の功績を讃えるかである。もちろん、選手が凱旋帰国した際には大規模な祝賀会が催される予定である。それに加えて、「祝日を制定する」「道路に選手の名前をつける」「土地を与える」等々、いろいろな案が挙げられている。文化やスポーツ功労者の功績は政治家に比べて評価されにくく、あのBob Marleyですら7人のナショナル・ヒーロー(国民的英雄)には数えられていない。主要な幹線道路につけられるのも政治家の名前が多いので、新たに建設される北海岸の高速道路に是非とも “Usain Bolt” と名付けて欲しいという声もある。これには、皆が世界新記録を狙ってスピード違反をするだろう、というオチがつくが。オリンピックは、久しぶりにジャマイカにもたらされた明るい話題であった。
Photo by AFP