ラスタファリアニズムは、レゲエと同じく、貧しい人々による社会への抵抗(抑圧からの開放)の思想を有しているため、貧しい人々のアイデンティティーとして語られることが多いが、少数ながら、知識人と呼ばれる中流階級以上のジャマイカ人にも信仰されている。先日、Bobo Hill(*)に住むラスタファリアニズムの一派Bobo Shantyのすみかを訪れた際に出会ったEmpress Sharon Kelly-Stairもそのうちのひとりである。
*Bobo Hill: 空港近くのBull Bay地区の、幹線道路から1マイルほど山を登ったところに位置する。通いのラスタファリアンも多いそうだが、常時100人ほどが居住する小さなコミュニティー。
Sharonは、ジャマイカのみならずカリブ海地域の東大に値する西インド諸島大学(UWI)で教育学を学んだ。彼女のこれまでの肩書きは、高校の校長、教育省の局長、ユネスコのコンサルタント、そして大学で講師である。そんな彼女が輝かしい職歴を捨てBobo Hillにやってきたのは2000年、49歳の時のことだった。
女性のBobo Hillへの立ち入りが厳しく制限されているので、私はSharonの案内を待ってコミュニティーへ足を踏み入れた。この時はロングスカートを履き、スカーフで髪を覆う。彼女は現金収入のために編み物をしており、この時も編みかけの作品を持っていた。場が馴染んだところで気になる質問を振ってみる。
「なぜ、ラスタファリアンになったの?」
「ジャマイカ社会では私の望むものが実現されないからよ」
彼女にとって、Bobo Shantyの教えにこそ真実があるのだという。人生とは何か、黒人とは何か、これらの疑問に対する答えがそこにはある。彼女はジャマイカ社会に息苦しくなり、失望し、その答えをラスタファリアニズムに求めているのである。彼女の父親は娘がラスタファリアンになりたいと聞き、精神病にかかったのではないかと絶望したという。ラスタファリアンに否定的なイメージを持つジャマイカ人のごくごく自然な反応だ。
父親の心配をよそにBobo Shantyに入信したSharonは、Bobo Hillでの生活に満足している。また、教育者としての経験を生かし、Boboの子供たちに算数や英語を教え続けているそうだ。
ジャマイカ社会が抱える矛盾や差別や貧困は、そこで暮らす人々に多大なストレスを与える。ジャマイカとは、お金持ちだろうと貧乏だろうと、それなりのストレスを抱えながら生きていかねばならぬタフな場所である。ジャマイカ人にとって、社会に対するストレスが心の器を越えた時の心の拠り所のひとつにラスタファリアニズムの思想があるのではないか。ラスタファリアニズムの思想は、貧しい人々のみならず、すべてのジャマイカ人にとって社会的苦難から脱するための手段となりうるのである。
Photo: 向かって左の女性がSharon